技術者ワーママ からだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会 16

前回の続きです。

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しばらく状況が分からず、真っ暗な画面を見ていたが、ゴーグルをつけていたことを思い出して彼は慌ててそれを外して立ち上がった。

 

スタジオの奥の部屋で、李がパソコンの前に座っていた。真っ青な顔でモニターを食い入るように見つめている。モニターには優香が見たことのない男性に肩を抱かれている様子が映っていた。今まで彼らがいた優香の部屋ではなく、花畑の中にあるベンチに座っている。

彼には彼らが話している声は聞こえなかったが、李がヘッドセットをしていて、そこから音が漏れていた。彼女の身体のノイズは消えていたから、一緒にいる男性が落ち着かせたのだろう。男性が顔を上げて笑顔を見せた。おそらくモニター越しに見ている李に向けたものだろう。それを見た李はふーっと息をついた。

「あの…」

彼が声をかけると李は硬い表情になって振り返った。

「佐藤さん、彼は友達じゃなかったんですか?」

李の責めるような眼差しに彼は耐えきれずに視線を落として答えた。

「本当に仲の良い友達だったんです。彼は彼女をとても大切にしていた。ただ彼は、彼女がいじめられるきっかけを作ってしまった。」

李は息をついてモニターの方を向いた。

「佐藤さん。あなたがユウカを大切に思っているのは知ってます。ユウカもとても喜んでいた。今もジョージが入ったらユウカはすぐ落ち着きました。多分良くなると思います。」

そう言った後、彼の方をまっすぐ見た。

「僕たちは、リアルの世界で自由に話す事が出来る。でも、ユウカにはここしか話す場所がない。だから、プロジェクトのみんなはユウカにとってここが絶対に安全な場所になるように気をつけます。ストレスを感じるとたくさん脳波が出て彼女の言いたい事が分からなくなります。

それに脳は怠け者だから、慣れると脳波が変わる。そうするとセンシング出来なくなる。だからユウカは全ての動きや言葉をすごく意識してアウトプットしてます。佐藤さんは歩く時に意識しませんね?彼女は右足を上げて出して、次は左足を上げて出して、と命令を出さないと動けません。すごく集中が必要。すぐ疲れます。

佐藤さん、焦らないで。ユウカは少しずつ元気になります。僕たちも一緒に、ゆっくり。」

李は諭すように彼に言った。

彼は彼女の現実での様子を見たことがない。ようやく事の深刻さに気づいた。彼女の唯一の居場所を奪うかもしれなかったのだ。

「佐藤さん、しばらくはユウカに会わない方がいい。三木さんにはジョージから話してもらいます、三木さんからOK出たら会いに来てもいいですよ。佐藤さんの仕事は大切、いい成果出してください。」

李はそう言うと、モニターの2人に視線を向ける。2人の座るベンチの足元で、ガーベラの花が揺れていた。

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