技術者ワーママ からだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 シュガーの物語②

①の続きです。

 

数日後、彼は面接を受けるためにその企業を訪れた。受付で名乗ると、秘書と思しき女性がやってきて役員専用フロア、会長室に案内された。

 

促されてソファに座り待っていると、先程の秘書が男性と一緒に入ってきた。

立ち上がり軽く会釈すると、微笑みながら、

「あぁ、やっと会えた。ずっと君に会いたかったんだ。三木です。」

と右手を差し出した。

「今回はお声がけ頂きありがとうございます。佐藤です。」

握手なんて何年ぶりだろう、と思いながら差し出された手を軽く握ると、三木は強く握り返し、彼の肩を軽く叩いた。

 

「どうぞ座って、コーヒーでいいかな?」

秘書に視線を送りながら会長席からファイルを手にして、彼の向かいのソファに腰掛ける。

 

「今日は来てくれてありがとう。きっと忙しい中時間を作ってくれたんだよね。」

「いえ、今は大きなプロジェクトがひと段落ついたタイミングだったので。周りにも少し休んだらと言われていたので、明るいうちに帰れました。」

「それなら良かった。この後また戻るって言われたら申し訳ないなと思ってたんだ。」

ドアがノックされて開くと香ばしい香りが漂ってきた。秘書がコーヒーを出してくれる。

「ありがとう。是非冷めないうちにどうぞ。さっきちょっといい豆挽いて淹れてもらったんだ。普段はドリップパックなんだけどね。」

軽く笑いながら三木はコーヒーを勧めると、一口飲んで目を細めた。

「やっぱりできる秘書は淹れるコーヒーまで素晴らしいね、ありがとう。」

褒められた秘書は苦笑いすると一礼して部屋を後にした。

久しぶりにちゃんとしたカップに入ったコーヒーを飲んだ。カフェインを体に入れるためではなく、嗜好品としてのコーヒー。思わず頬が緩む。

 

「さて、何から話そうか。正直、君の経歴については君と仕事をしたことがある社員から話を聞いてウチにはもったいないほどの優秀な人材だということは理解したつもりだ。ソイツが『もしかしてウチに佐藤さん来るんですか?会長いくら積んだんですか?』って驚いてたからね。」

「いや、大した仕事はしてませんよ。たまたまアピール上手な同僚が大袈裟にしてるだけで。世界中に私よりも優秀なエンジニアはいくらでもいます。」

本心だった。世界で考えれば、上を見たらキリがない。環境のせいにする人もいるが、日本の企業で働く事を選んだのは自分だ。

 

「さすが日本を代表するデータサイエンティストだね。確かに日本は最先端といえる状況ではないね。」

少し寂しそうに三木は笑うと、真剣な表情で彼を見つめた。

 

「だからこそ、君の力が必要なんだよ、シュガー。僕の話を聞いて欲しい。

 

君にお願いしたいのは、君の持っている技術で人の心を救うシステムを構築することだ。

もちろん簡単なことではない事は分かっている。時間がかかることも承知の上でだ。君が必要だと思うものがあればできる限り用意しよう。」

勢いに気圧されていると、急に我に返った様子で微笑んだ。

「…いきなり本題に入ってしまったね、すまない。もし思っていた話と違うようなら、無理にとは言わない。君がウチの事業の中で興味を持ってくれるものがあればそこで協力してもらうだけでもありがたいんだ。どこも人手不足だからね。」

三木は視線を落としてコーヒーを飲むと、ゆっくりと彼に視線を戻した。

 

「僕に聞きたいこと、きっとたくさんあるだろう。何から話せばいいかい?」

 

聞きたいこと…ずっと気になっていた、そして誰も答えをくれなかった事。

 

「三木は…すみません。優香さんは、今どうしていますか?」

 

彼は彼女の父親を見つめて尋ねた。

 

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