技術者ワーママ からだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 シュガーの物語⑤

④の続きです。空いてしまいました。。。

 

採用が決まってから3ヶ月後、彼は三木の会社で働き始めた。

 

妻は初めこそ戸惑っていたものの、すんなり転職に賛成してくれた。というより、どちらにしても忙しくて家にいないなら、待遇が良くなる方が家計が助かる、という判断のようだ。正直早く帰れるようにはならないだろうから、割り切ってもらえたのはありがたいと思う。

休みは以前より取れそうなので、休日に少しでも家族サービスしないとな、と彼は考えていた。転職してしばらくは時間も取れるだろう。

 

メインの仕事は、SNSサービスにAIを組み込むプロジェクトだ。ユーザーの好みなどを把握し、興味を持ちそうな製品やサービスの広告を表示させるような機能や、デジタルマーケティングによる消費行動予測などでクライアント企業の収益改善提案につなげる。

それ以外にも投稿内容の解析や監視を行うシステムのプロジェクトも担当だった。運営するSNSで悪質投稿の監視や、企業の炎上リスクにつながる投稿をAIに判定させるAIフィルターを開発している。これによって人による内容確認を大幅に削減できる。

 

これらのプロジェクトが担当とはいえ、三木から言われたように、プロジェクトマネージャーのサポート役のようだ。元々別の企業から社員ごと買収したようで、チームも大きな混乱はなさそうだ。彼を知るエンジニアからは相談を受けることはあっても、アドバイスをする教育係として過ごしている。流石に締め切り前など人手が逼迫した時には駆り出されるが、前職よりもずっと人間らしい生活を送っている。

 

メインの仕事に慣れてきた頃に、新しい事業の相談をしよう、と三木に呼び出された。会長室のドアをノックして部屋に入ると、三木と見知らぬ女性が談笑している。

三木は笑顔で彼に声をかけ、彼女について話し始めた。

「今度契約したカウンセラーの酒井恵美さんだ。一応、メインは社員のメンタルヘルスのケアだけど、オンラインカウンセリングも対応してくれる、という話なので、君にお願いしたい仕事にも協力してもらおうと思ってね。」

酒井は立ち上がって軽くお辞儀をした。

「酒井です、はじめまして。」

「はじめまして、佐藤です。お世話になります。」

酒井は微笑みながら名刺を差し出した。慌ててポケットから名刺入れを取り出して交換する。

「さっき三木さんからお話お伺いしました。優秀なエンジニアで頑張って口説き落としたって。」

「そりゃ自慢のエースだからね。僕の功績もアピールしとかないと」

と三木もにやりと笑って言った。

「いやいや僕なんか大したことないですよ。」

苦笑いしながら彼は答えた。

「僕はどちらかというと社交的ではないので、カウンセラーってすごいな、と思います。オンラインだとビデオ会議システムでお話されるんですか?」

「そうですね。私が経験したことがあるのはZ社のツールを使ってました。ただ電話の方が話しやすい方もいらっしゃいますから、そこはご要望に沿って選びます。チャットを使うサービスもありますが、実際にお話した方が詳しくお話が聞けるので。」

「チャットのカウンセリングもあるんですね、人が対応するんですか?」

「はい、臨床心理士などの資格を持ったカウンセラーがメールやチャットで対応するものと、チャットボットのようなAIとの対話ができるサービスもあります。例えば家族に聞かれたくない場合など、メールやチャットの方が使いやすいみたいですね。ボットのほうは現時点ではあくまで愚痴を聞いてあげる雑談のようなもので、ちゃんとしたカウンセリングができるものはまだ珍しいと思います。」

家族に聞かれたくない、というのはケースとして多いかもしれない。その場合はチャットでのやり取りがメインにはなるだろう。使い方を想定しながら必要な人が使いやすいシステムを考えなければ。

と考えていたら、三木に声をかけられた。

「でね、佐藤さん。

君のイメージするシステムが、カウンセラーの立場から見たときに問題ないか、あと、どんな機能や仕組みがあったら良くなるかなどアドバイスをもらってほしいんだ。もちろん僕もシステムのイメージは知りたいから相談する前と後で一度話は聞かせてね。

その上で、システム開発に何が必要かをほしい。必要なら酒井さんにも協力してもらうし、カウンセリングのモニターを集めてデータを取ってもいいと思ってる。予算は心配しなくていいから。」

とてもありがたい話だ。好きに進めていい。ということだろう。だが…。

「三木さん、予算を気にしなくていい、というのはありがたいのですが、どこから出るんですか?」

「まぁ、僕も含めてスポンサーが複数あるってことかな。そのうち分かるよ。」

含みを持たせた笑いで三木は答えた。

「酒井さんもウチの専属ではないから、スケジュールは二人で調整してね。あと、酒井さん、後でフォームを送るから、この業務に割いた時間を毎月申請して下さいね。」

「あ、はい。カウンセリングの業務とは分けてって事ですね?」

「うん、そう。よろしくね。」

二人のやり取りを聞きながらますますこの仕事がわからなくなってきた。

もちろん意義のある仕事だと思う、ただ、ビジネスとしてやらないのだとしたら、目的は何だろう?

 

「佐藤さん、本業も忙しいと思うけど、どれくらい時間が必要かな?出来れば年内に必要な予算が分かってるとありがたいんだけど、2ヶ月で何とかなる?」

「僕の裁量の範囲で調整していい、って事なら問題ありません。ちなみに、開発に必要なエンジニアは増員出来るんですか?」

「そうだなぁ。社内で人が余れば兼任で連れてこれるかなぁ。あ、派遣なら大丈夫。」

「今更ですが、これ、どれくらい時間かけていいんですか?時間かかってもいいなら僕一人でやりますが、趣味みたいな進捗になりますよ。」

三木は困ったような顔で

「そうだなぁ。完全な形でなくていいから、次年度で使えるといいなぁ…ダメ?」

と会長らしからぬ口調になった。

「即戦力ひとり追加で、本業手を抜いていいなら何とか。」

彼が笑顔で言うと三木は苦笑いした。

「…わかった、考えとくよ。」

彼は二人に向かって

「酒井さんと打ち合わせの場合はこちらにお越しいただけるんですか?僕からお伺いした方が良ければお知らせください。あと、社内の会議室は入れます?」

と尋ねた。他の用もないのに呼びつけるのも気が引けた。

「あぁ、会社の診療所にカウンセリングルームがあるから、そこを使うといい。彼女も週に数日そこにいるから。」

なるほど、それなら不自然じゃない。でも、中途で来てそうそう診療所に入り浸るのもあらぬ誤解を招きそうだ。ほどほどにしておこう。

「ありがとうございます。ではまたご連絡します。三木さんにもご提案のスケジュールなどを改めてお知らせします。」

彼は立ち上がると一礼して会長室を後にした。

 

つづく

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