技術者ワーママ からだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会③

前回の続きです。

 

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ゴーグルの画面が真っ暗になり、メーカーのロゴが映し出されたところでゴーグルを外した。殺風景なスタジオで現実に引き戻される。

 

複雑そうな表情で三木がこちらを見ている。

奥から李がやってきて、笑顔でゴーグルを引き取った。

「佐藤さん、楽しかった?このスーツ、アクチュエーターが入ってて、ちゃんと感触も再現できるんです、すごいでしょ?ユウカとハグできましたね…三木さん、ユウカはみんなにハグするんだから気にしないで、僕もしたでしょ?」

「でも、佐藤くんは日本でずっと仕事してるし、ほら、家庭もあるし…」

モゴモゴ言っている三木を無視して、

「佐藤さん、奥にいるのでスーツ脱いだら僕に下さいね〜。じゃあ今日は終了です。」

と言うと奥に戻っていった。

 

スーツを脱いで李に渡し、三木と前室に戻る。

「少し話そうか」

三木は会議スペースの席に彼を促すと、向かいの席に腰掛けた。

「優香と会ってくれてありがとう。とても楽しそうにしていて、僕も嬉しかったよ。君はどうだった?」

「僕も久しぶりに会えて良かったです。思っていた形とは違いましたが、ちゃんと話せて彼女を感じることができました、こちらこそありがとうございます。」

そう彼は答えたあと、どう言葉を繋いだものか、と考えていた。どこまで聞いていいのだろう、きっと答えにくい事もあるはずだ。ただ、会わせてくれたからにはきっと意図がある。

「交通事故だった」

三木は静かに話し始めた。

「重体だったから、しばらくICUに入ってたよ。一命は取り留めたんだが意識が戻らなくてね。一般病棟に入った後は妻がずっと付き添って話しかけてたよ。

そのうち、わずかに体が動いたり、目は閉じたままだが動くようになったんだ。検査はしてもらって、主治医にはいわゆる植物状態だと言われたよ。こちらの呼びかけに反応してるかどうかは分からなかったんだけど、妻が絶対聞こえてると譲らないから、脳科学の研究やってる知り合いに頼んで脳波を詳しく見てもらうことにした。

その結果、恐らく娘には聞こえてる、って。多分それに対して発語なり行動なりをしようとする反応はあるけど、身体に伝わってないと。

主治医からは脳の一部に損傷があって、時間が経てば回復する可能性があるとは聞いていたが、動けるまで回復するかどうかも分からない。それなら、直接脳波から娘が伝えたい事、したい事を知りたいと思ってね。

ジョージは脳波を使ってロボットを動かす研究で世界的に有名な研究者で、知り合いに紹介してもらって彼に協力を依頼したんだ。」

彼もブレーン・マシン・インターフェースと呼ばれる分野の技術がある事は知っていた。脳波や筋電を計測し、直接ロボットアームを遠隔でも動かすことができる。当然仮想現実の中でアバターを動かす事も可能だろう。ただ、これは実際に身体を動かせる人に対して、その脳波と動きを検証しながら擦り合わせる事が前提だ。何をしたいか分からない相手でどう実現させたのか。

「はじめは イエスかノーかからだったよ。そこから脳波を読み取って、娘が言いたいことやしたい事と脳波をマッチングさせた。AIも活用して、少しずつ会話が成り立つようになったんだ。正直、今日こんなにスムーズに君と会話できるとは思ってなかったよ。」

少し寂しそうに三木は笑った。

「僕はね、もし、娘がこのまま体の自由を取り戻せなかったとしても、娘の居場所を作りたいんだ。できれば娘が学んだり、いつかは働いたりできるような世界を作りたい。

仮想現実の中に経済圏を作ることはもうすでに始まりつつあるが、娘のように身体が自由に動かなくても制約のない世界を作りたいんだ。その世界に、例えば事情があって外に出て働けない人もここなら大丈夫かもしれない。そこに新しい経済圏が出来れば、経済としてもメリットがある。そのための働きかけも色々していくつもりだ。

君にお願いしていた仕事は、将来その新しい世界の中で住人を守る存在として必要だと思っている。それに新しい住人を見つけることになるかもしれないしね。もちろんそれ以外にもたくさんやって欲しいことはあるから、色々無理言うと思うけど。

僕のゴールは君に伝わったかな?」

三木が会長に退いた覚悟が理解できた。

「はい、どこまでお役に立てるかわかりませんが、新しい世界の一部になれるように全力を尽くします。」

彼が答えると、三木は笑顔になった。

「うちのエースだからね、期待してるよ。」

 

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