技術者ワーママ からだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会⑤

前回の続きです。

 

 彼と三木優香は高校2年生の同級生だった。特に親しいわけでもなく、仲が悪いわけでもない、お互い名前と顔が一致する程度の関係だった。

 

 それが変わったのは『情報』の授業だ。パソコンを使ったプログラミングを学ぶ、というもので、私立の進学校で独自のカリキュラムとして必須化に先立って取り入れられた。

とはいえ、文系理系問わず全員必須、となると授業内容は初心者向けになる。既にこの時に独学でプログラミングを習得していた彼にとっては退屈な時間でしかなかった。課題がすぐに終わってしまい、暇を持て余した彼は、こっそり授業中にオリジナルのゲームを作って時間を潰していた。パソコンがずらりと並んだ専用教室では席が固定となっていたこともあり、授業時間はちょっとした趣味の時間になった。

その時に隣の席だったのが優香だ。大人しくて真面目だが、さほどプログラミングに興味がない彼女にはこの時間は苦痛だったに違いない。先生からの指示が分からず、よく途方に暮れていた。時々小声で「ねぇ、今のどうやるの?」と助けを求められ、ゲームを作ってるのを先生に見つかるのも面倒なので彼女に教える事が増えていった。すると、反対側の隣の奴が便乗するようになった。

「ねぇねぇ佐藤クン、俺もわかんないから教えて〜」

人懐っこい笑顔で潮田健人が画面を覗き込んでくる。スクールカースト上位のイケメンだ。なんだかいい匂いがしてドキッとする。

「お前は出来るだろ、自分で考えろよ」

と彼が照れ隠し半分で突き放すと、

「さすがプログラミングマスター、みんなとは格が違うね。新作のゲーム?」

とさらに画面に顔を近づけてきた。

「わかったよ、ほら、こっちに書いてあるから見ろよ」

「あざーす、助かる!」

「ホント助かる〜、ありがとう!」

両脇から画面を覗き込まれながらもゲームのプログラミングを続けていた。

 

そんなやり取りが続けているうちにこの授業の間だけは3人でよく小声で話すようになった。相変わらず2人は彼の画面をひたすら真似しながら話している。

「ねぇ、今作ってるゲームってどんなやつ?出来たら俺にもやらせてよ。」

「あっ、私もやってみたい!」

「いや、さすがに授業中は怒られるよ。しかもクリアするのに時間かかるやつだし」

「じゃあそれ終わったら簡単なの作ってよ。俺と三木で対戦するからさ」

「何だよそれ、じゃあ2人でゲーセン行けよ」

「佐藤冷たいな〜、なぁ三木?」

「でも面白そうだね、3人でやってみたいな」

「…わかったよ、来週な」

 

盛り上がっていると、

「コラそこ3人、うるさいぞ!出来たのか?」

と先生から注意されてしまった。

「大丈夫でーす」

3人は顔を見合わせて小さく笑った。

 

授業が終わると健人のところに必ずカースト上位の女子が迎えに来る。大抵気の強い美人だ。

「ケント、いつまでそいつらと一緒に遊んでんの?早く行こ」

「いや、佐藤が今度ゲーム作ってくれるって…分かった、引っ張るなって!行く行く、じゃあな!」

腕を取られて引きずられながら笑顔で遠ざかる健人を眺めた後、優香と顔を見合わせて苦笑いした。

「潮田君、人気者だね」

「そうだな」

優香の笑顔が少し近くて、恥ずかしくなってそっぽを向いて彼は答えた。

 

今にして思えばこのままの関係なら良かったんだと思う。このまま卒業までいれば誰も傷つかずに済んだのに。

 

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