前回の続きです。
資料の内容を確認すると、開始時期は今から半年後以降とある。早く形にしたい、と三木は以前話していたのでそれまでどうするかを確認すると、
「じゃあ、リソースかけずに佐藤さんのできる範囲でデモっぽいの作っておいてくれる?中身はちゃんとしてなくていいから1ヶ月くらいで出来ると助かるよ。どうせ申請するときに事前確認みたいなの来るからさ、もちろんプロジェクトにも活用できると嬉しいね。」
「リソースかけずというと、僕の人件費だけって事ですか?モニターは国のプロジェクトだと個人情報の扱い大変ですよね?」
さすがにそれでは辛い。
「まぁそうだねぇ。じゃあモニターだけ社内の予算でやろうか。酒井さん確か週3日だから、あと2日分調整できるか聞いてみて。彼女と君ができる範囲で処理できそうな人数をモニターにして、予算もさっきのミニマム案だったら僕の方で調整できるから。予算の処理は酒井さんと同じだから彼女に教えてもらって。」
「モニターの期間は国プロ開始までの半年ですよね?勿論採択されるかどうかは別だと思いますが…」
「うん、半年でお願い。あと、採択される前提で準備しておいて。」
「分かりました。」
色々気になることはあったが、やるべき事が変わるわけでもないのでここは触れないそうにしようと彼は思った。三木の表情が少し硬いのはビジネスの話だからかもしれない。
「あと、三木さん。もう一つご相談が。」
なんだい?と三木が少し意外そうに彼を見た。
「優香さんの事なんですが…彼女とまた話をしてもいいですか?」
笑顔で三木は快諾してくれた。
「あぁ、是非また会ってやって。この前君と話をしてから、少しずつ回復しててね。話しかけた時の反応が良くなってきたんだ。妻も喜んでいたよ、ありがとう。この前の部屋にいる李さんに言えばスケジュール調整してくれるばずだから。」
「あの…優香さんは過去の記憶はどれくらい戻ってるんですか?シュガーを覚えているということは、他の同級生も覚えてるんでしょうか?彼女に合わせたい人がいるんです。」
三木は彼の顔をしばらく見つめると、首を横に振った。
「僕たちも娘がどこまで覚えているかは分からないんだ。あの空間では、娘がストレスを感じた状態では彼女の言葉を感知出来なくなる。だから、少しずつ様子を見ながら会話をしてるんだ。佐藤さんが話をしてくれて、過去の話も聞きだせることがようやく分かったぐらいだ。もちろん娘にとって君と話すことはいまプラスになってるけど、すぐ他の人も、というのはストレスになるかもしれない。だから、しばらくは君だけにしてくれないか?」
「はい。分かりました。わがままを言ってすみませんでした。」
「いや、いいんだ。この間の娘の様子を見て、君が娘の支えになってくれてた事がわかったよ。本当にありがとう。」
こちらこそ、と彼は三木に礼を言って部屋を出た。